LOGIN自室の扉を開けると、奥からルナフレアが出て来て出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、カリナ様。今日はお早いのですね」
「ああ、討伐任務だけだったし、その後はカシューと今後のことについて話し合いしたくらいだけだしね」
そう言うカリナの服装が出発前とは違うことに気付き、ほうほうと眺めるルナフレア。
「そうでしたか。それにしてもまた可愛らしい衣装ですね。リアさん達やりますね。カリナ様の可憐さをしっかりと引き出している素敵な服です」
服を褒められているのか自分を褒められているのかよくわからなくなったカリナは妙にそわそわした。
「また無理矢理着せられたんだよ。新作だってさ。これからは新作ができる度に着せ替え人形にされる予感しかない」
「いいではありませんか。私などいつもここに努めているのでこのメイド服ばかりですよ。たまにはお洒落をしてもみたくなります」
「そうか……。あ、だったら明日は城下に用事があるから一緒に行くか? ルナフレアの私服も見てみたいしな」
その言葉にルナフレアは目を輝かせた。
「本当ですか?! カリナ様とデートでしたら思いっきりおめかししないといけませんね」
「いや、別にデートでは……、ってまあいいか。明日はギルドに用事とその他にも色々と回ってみるつもりだから。楽しもう」
喜ぶルナフレアを見るとそれ以上は何も言えなくなってしまった。これまで寂しい思いをさせていた分、明日はしっかり満足してもらえるようにしようと、カリナは心の中でそう誓った。
「まだ早いですけど、お風呂になさいますか? 討伐任務だったのならどこかしら汚れているかもしれませんから」
くんくんと自分の匂いを嗅いだが、新しい衣服の匂いしかしない。だが、折角だし頂くとしようと思い、彼女の意見に同意する。
「それほど汚れてはないかもしれないけど、髪の毛とかはわからないし、それならお先に頂こうかな」
「はい、お風呂はいつでも綺麗になっておりますよ」
そう言って笑ったルナフレアを見て、カリナは浴場に向かった。
◆◆◆ 更衣室。カリナは衣装を脱ぐのに苦戦していた。無理矢理着せられたので、どのようにして脱げばいいのかイマイチわからない。「むぐぐ、脱げない。どこかに紐やら留め具があるのか?」
四苦八苦していると、ルナフレアが更衣室に入って来た。
「どうなさいましたか? ああ、脱ぎ方がわからないのですね」
「そうなんだよ、お洒落なのはいいけど、上手く脱げないとさすがに困る。ちょっと手伝ってくれないか?」
「そうですね、多分スカートのこの部分のリボンを緩めたら、ほら、ウエストが緩くなりましたよ。あとガーターは留め具を外して……、はい、これで脱げましたよ」
ほっと安堵すると共に、女性のお洒落衣装は着るのも脱ぐのも大変なのだと実感した。これまでは装備欄を触るだけで自動的に着脱可能だったのだから、便利過ぎたのである。今後はこういう女性の衣装にも慣れていく必要がある。
「ありがとう、じゃあ入って来る」
タオルを巻くと、カリナは浴場の扉を開けてさっさと入って行ってしまった。
「私も一緒に入ってもいいかしら……? カリナ様がちゃんと洗えているのか気になる」
そう思い立ったルナフレアはメイド服を脱ぐと、カリナの後を追った。
◆◆◆ さて、入浴する前に洗わなければと思い、シャワーの前の椅子に腰かけると、シャンプーで頭をわしわしと洗い始めた。毛が長いとやはり大変だと思いながら乱雑に髪の毛を手で洗う。 目の前の鏡に映る自分の姿は少々幼さが残る美少女である。周りからはこんな風に見えているんだなと改めて思う。「そりゃちょっかいもかけたくなる、のかな?」
リア達メイド隊が可愛らしい衣装を着せようとして来る気持ちも何となくわかってしまった。
「あらあら、そんな洗い方ではちゃんと綺麗になりませんよ」
そのとき背後からルナフレアの声が聞こえた。もしかして洗うのを手助けに来てくれたのかと思って、鏡越しに確かめることもせずにカリナは後ろを振り返った。
目に飛び込んで来た彼女の姿は、タオルを一枚体の前に片手で掛けただけの、一糸纏わぬものだった。余りの驚きに、カリナはさっと目を逸らした。
「少々恥ずかしいですが、今は女同士ですから……」
「いや、まあそれはそうだけど……」
ルナフレアの肢体は美しく均整が取れておりながら、出るところはしっかりと主張している。大人の女性のそれだった。元はNPCとはいえ、意志を持った普通の人間である彼女に対して、カリナは恥ずかしさと見てはいけないものを見てしまった罪悪感でいっぱいになってしまった。
「大丈夫ですよ。私が洗い方を教えて差し上げますから。先ずは、このシャンプーを落として……。最初にお湯でしっかりと素洗いをして下さい。この長さなら、五分は必要ですね」
そう言いながらルナフレアはカリナの後ろに椅子を持って来て座り、綺麗に髪の毛を濯いでくれた。そのまま後ろから手と櫛を使って素洗いをしてくれる。カリナは他人から洗ってもらうのは気持ちいいのだと感じた。美容院などでシャンプーをしてもらうときのあの感覚である。
素洗いが終わると、シャンプーを手に取って泡立ててから柔らかい手つきで前髪から後ろ髪まで丁寧に彼女はカリナの髪を洗ってくれた。身体が密着する度に、彼女の豊満な乳房がカリナの小さな背中に当たり、それがカリナをドキドキさせた。ルナフレアは善意でやってくれているのにこんな気持ちになるのは良くないと、自制心を働かせた。
そうこうしている内にシャンプーが終わり、丁寧に濯いだ後、今度はトリートメントまでしてくれた。
「カリナ様、ちゃんとトリートメントを昨日しましたか?」
「あ、いや、したけど待つのが面倒臭くて直ぐに流してしまったかも」
「トリートメントが馴染んでいる間に体を洗いましょう。その後流せば時間の短縮になりますよ」
そう言って、スポンジにボディソープをたっぷりと付けてカリナの身体をルナフレアは丁寧に労わるように洗ってくれたのだった。その頃には体を隠していた小さなタオルは支えを失って、ルナフレアの一糸纏わぬ姿が目の前に曝け出されていた。それは妖精族だけあって、まるで彫刻の様に美しかった。そしてリラックスしているからなのか、背中から美しく七色に輝く妖精族特有の蝶のような羽が現れていた。
「何度見ても綺麗だな、その羽は」
「ありがとうございます。カリナ様の可憐さには敵いませんが、私にとっての自慢です」
そう言ってルナフレアはふわりと笑った。
全身を洗い、トリートメントを濯いだ後、ルナフレアが自分の身体を洗う間にカリナは湯船に浸かった。大したことはしていないが、今日の疲れが滲み出て癒されていく様に感じられた。浴槽の縁に頭を乗せて、高い天井を見上げる。これからの冒険の旅に思いを巡らせる。新生VAOとも言えるこの世界に果たして何が待っているのだろう。
そうして微睡んでいると、ルナフレアの声が聞こえた。
「洗い終えました。隣よろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
カリナの右隣の浴槽に浸かるルナフレア。その豊満な双丘がぷかぷかとお湯に浮いていた。
「……浮くんだな」
「ええ、恥ずかしながら。でも浮いている方が楽ですよ」
そう言いながら自分の胸をたぷたぷと下から持ち上げるルナフレア。カリナは真似してみたが、自分のではそこまで大きさが足りない。
「私のでは無理だな……」
「うふふ、でももしかしたらこれから成長するかもしれませんよ」
くすくすと笑うルナフレアだが、PCはカシューが言っていたが、体形や年齢の変化がないらしい。恐らくカリナの胸がこれ以上育つことはないだろう。
「気持ちいいな。こんな大浴場を独りで使うのは贅沢だ」
「ではこれからはいつもご一緒させて頂きますね」
そう言ってルナフレアは、頭をカリナの方へ傾けてもたれ掛かった。静かな時間が流れて行く。
女性のままで良かったかもしれない。もし男キャラだったら、こんな魅力的な女性が側仕えで好意を寄せてくれていたら、現実世界なら、我慢ができなかっただろう。
不躾な考えが頭をぐるぐると巡る。今は自分が女性であることに感謝しなければいけないとカリナは思った。そしてこの世界が続く限りは彼女を大切にしたい。だから帰って来たときは必ずちゃんと顔を見せようと思うのだった。
「さて、そろそろ上がろうか? 今日は二人でゆっくり過ごそう」
「はい、夕食はとびきり豪勢にしますから」
更衣室でルナフレアに全身を丁寧に拭かれ、部屋着に着替えさせられた。下着の着け方もレクチャーされる羽目になったが、今後必要になる身だしなみである。カリナはルナフレアの好意をありがたく受け取った。
「至れり尽くせりだなあ」
「まあ、私は側付きなのですからこれくらいは当然です。それにカリナ様にはいつも元気で健康でいて欲しいですから。カーズ様のときにはできなかったお世話も色々とできて、今はとても嬉しいのですよ」
「まあ、男の姿の時に風呂に一緒に入るとかはさすがにできないからな」
「私はカーズ様が求められるのなら構いませんが?」
「いやいや、貞操観念はちゃんとしような。今は女の姿だから大丈夫なだけだから。男にそんなこと言ったらダメだぞ」
危なっかしい。まあ彼女が自分以外に変な気を起こすことはないだろうが、どこか心配になる。
「心配しないで下さい。カリナ様以外の方にこのような無防備な姿を見せることはありません。これでも王国騎士団長直属の側仕えなのですよ。武術の心得もありますし、魔法も使えますからね」
カリナが杞憂していることを感じ取ったのか、彼女はそう言って胸を張った。早く服を着て欲しい。目のやり場に困る。
「失礼しました。では私も着替えます。カリナ様は部屋でごゆっくりなさって下さい」
◆◆◆ その後は自室で読書をしたりと思い思いに過ごし、夕食はルナフレアの作ったご馳走に舌鼓を打った。就寝の時間になると、また部屋にやって来たルナフレアと一緒に寝ることになった。手を繋いで寝ていたはずが、いつの間にか彼女に抱き締められていた。だが心地良い彼女の柔らかさに包まれて、カリナは再び目を閉じて眠りに落ちて行った。
翌朝、ルナフレアの朝食を作る音と匂いで目覚めたカリナは、キッチンへと向かった。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「おはようございます、カリナ様。ええ、お陰様で気持ち良く眠れました。でも私、寝相が悪かったりしませんでしたか?」
「ああー、いつの間にか抱き締められてたけど。別に悪いとかじゃないから気にしなくていいよ」
「私ったら……。次からは気を付けますね」
また次があるんだな。ということはこれからはずっと彼女と就寝することになるのだろうとカリナは悟った。だが100年間の孤独の埋め合わせ程度と考えると安いものだとも思った。
朝食を食べてから着替えなどの準備をすると、二人は城下のギルドへと向けて出発した。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
執務室を後にしたカリナは、城を出て城下町の西区へと向かった。 活気あふれる街並みを抜け、西区の一角に広大な敷地を構える「エデン王立学園」。そこは次代を担う騎士や術士を育成する機関であり、今は多くの若者達が集う場所となっている。 石造りの立派な正門をくぐると、そこは若きエネルギーに満ち溢れていた。広大なグラウンドでは、騎士科の生徒達が模擬戦で汗を流し、魔法科の生徒達が標的に向かって呪文の詠唱を繰り返している。「ほう……。なかなかいい動きじゃないか」 カリナは立ち止まり、鋭い眼光で生徒たちの訓練を見つめた。平和ボケしているかと思いきや、どの生徒の瞳にも真剣な光が宿っている。各地の悪
精霊の塔・最上階。 石床は砕け、空気は灼け、カリナの呼吸は荒くなっていた。剣を振るうたび、腕に重くのしかかる衝撃。魔法剣士として精霊と呼吸を合わせることができない純粋な剣技だけでは、それを振るう悪魔の膂力の前では分が悪すぎる。「くっ、はぁっ……!」 アグノス・レギウスの大剣が、横薙ぎに唸る。受け止めきれず、カリナは後退する。衝撃を殺しきれず、床に深い溝が刻まれる。一撃一撃が、確実にカリナの命を削りに来ていた。「終わりだ、召喚士カリナ。その剣では、ここまでだ」 アグノスがトドメの構えに入る。もはや回避も防御も間に合わない距離。絶望的な質量が頭上から迫る。 その瞬間―― カラ
精霊王の姿が消え、最上階に静寂が戻った。 だが、今のカリナが纏う空気は、塔に来る前のそれとは明らかに異なっていた。肌は内側から発光するように透明感を増し、その身に纏う魔力はどこまでも清浄で、かつ濃密だ。「……すごいにゃ、隊長」 物陰から恐る恐る出てきた隊員が、カリナを見上げて目を丸くした。「なんかこう、ピカピカしてるにゃ。神様みたいにゃ。近くにいるだけで身体の奥から元気が湧いてくるにゃ!」「ふふ、そうか? 自分ではあまり分からないが……確かに、身体は羽が生えたように軽いな」 カリナは自身の掌を見つめ、握りしめた。 精霊達の声が、五感を通してダイレクトに響いてくる。風の
世界樹の森を後にしたカリナは、ペガサスで休憩をはさみながら北上を続けた。 日が傾き、空が茜色から群青色へと変わる頃、眼下に霧に包まれた幻想的な街並みが見えてきた。目的の街、リシオノールだ。 街から少し離れた街道沿いにペガサスを降ろし、労いの言葉と共に送還する。そこからは隊員を連れて徒歩で南門へと向かった。 リシオノールは「霧の街」の異名を持つ。五大国の一つである陰陽国ヨルシカの和風の文化圏に近い影響を受けており、夕刻になると立ち込める白い霧の中に、瓦屋根や木造の格子戸といった和の風情を感じさせる建物が浮かび上がる。 石畳の道もしっとりと濡れ、軒先に吊るされた提灯の淡い光が、幻